ぬるオタな日々 by 少恒星

アラフォー独身のぬるオタの日々戯言。

映画『窓ぎわのトットちゃん』八鍬新之介監督の講演に行ってきた

昨年観た映画のベストワンは、なんといっても『映画 窓ぎわのトットちゃん』だった。

tottochan-movie.jp

言わずと知れた黒柳徹子さんの大ベストセラーのアニメ映画化だけど、予想を遥かに飛び越えて素晴らしかった。間もなく戦争を迎えようとしている時代の子どもたちを生き生きと映す一方、そこへ密かに忍び寄る戦争という暗い影を臆面無く見せつけていて衝撃的だった。この映画を企画したのは映画『ドラえもん』シリーズで良作を連発していた八鍬新之介監督で、それもあってもとより期待していたのだが、それすらも遥かに上回ってしまった。

こんな映画を見せつけられて、一度監督の話をじっくり聞けないものかと思っていたら、NHK文化センターで八鍬監督を講師に招いての講座が行われるという告知が。しかも場所は、自分の住まいである京都!
講座はオンラインでも受けられたが、せっかくの機会なので、迷わず現地の教室で受けてきた。

講演では、映画の企画を立ち上げてから、アニメ制作、そして公開に至るまでのエピソードが、八鍬監督の口から事細かに語られた。しかも、企画書やシナリオ、絵コンテ、美術ボード、ロケハン写真など、今回が初公開となるであろう資料も多く見せてくれたので、プロジェクターから終始目を離せなかった。企画を考えた経緯などは、すでにメディアでも語られていたとおりだったが、その企画書をシンエイの社長に直接提出したという大胆さにも驚かされる。

また、監督はポリオ患者の方に取材をしたときのエピソードも明かしてくれたが、その話もなかなか興味深かった。ポリオの方は、足が不自由な分、腕をよく使うため、実は腕相撲がめっぽう強い人が多く、泰明ちゃんとトットちゃんの腕相撲のシーンには「おかしい」と指摘する人もいたとか。さらに、高尾山のハイキングに同行した際に、ポリオの会の方々はあえて舗装されていない裏道を通って登っていったのだが、その理由が一般の方の登山の邪魔になるからだという。しかし、ポリオの方は、それをネガティブに捉えず、むしろ当たり前のようにそれを受け入れて前向きに楽しんでいたそうで、その話を聞いた私は、彼らをすごく「大人」のように感じたと同時に、少し恥ずかしさも覚えた。

受講者からの質問タイムでは、劇中のシーンについての質問が目立ち、八鍬監督は、そのシーンに込めた狙いや意図を詳しく解説してくれた。その答え一つ一つが、とても真摯で納得させられる。自分も事前に質問を送っていて、アニメ業界を志した理由やシンエイ動画に入社した経緯を聞いてみたのだが、意外なことに八鍬監督はアニメ業界志望では無かったという。もとは実写のほうを志していたものの挫折。その後シンエイに入社したのは、毎年『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』で「映画」が作られていることが大きく、その内容の深さと、実写では描けないような世界で展開される点に魅力を感じ、挑戦してみようと思ったからだそうだ。そうした経緯があったからこそ、八鍬監督の「映画」に対する思いは並々ならぬものがあり、それだけ考え抜かれて作られていたのだということが十分理解できた。

終了後、教室受講者は八鍬監督からサインを頂けるということで、参考教材にと思って持ってきていた映画のパンフレットにサインを頂くことができた。サインを頂くときに、自分は「原(恵一)さんや、渡辺歩さんの系統を感じました」と、シンエイの先輩監督を引き合いに出して話しかけると、八鍬監督は絵コンテの話を持ち出し、「渡辺さんは、絵で見せていくタイプなんですけど、僕はどちらかといえば原さんのように演出を考え抜いて絵コンテを書いていくタイプですね。多少渡辺さんを真似て書いているところはありますけど」と、二人の偉大な先輩に敬意を込めたように話されたのが印象的だった。またいつか八鍬監督のお話をもっとたくさん聞きたいと思った。

八鍬監督、わざわざ京都までお越し頂きありがとうございました。またいつか再びお目にかかれる日を楽しみにしています。

シンエイ三大監督のサインが揃いました