作品展は、各部門の受賞作品の上映や展示が、部門ごとに区切られて行われ、なかなか見応えのある内容になっていた。あいにくこのあとに『たまこラブストーリー』の上映会が控えていたため、展示をゆっくり見ることができなかったのだが、美術館などに行って作品を観るよりも気軽に、しかしアーティスティックな感覚を楽しめるのがメディア芸術祭の面白さなのだと思う。できることなら全国巡回してほしいところなのだが…。
これだけはちゃんと観ておきたいと思っていたのはアニメーション部門の展示。優秀賞の『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』『ジョバンニの島』、新人賞の『たまこラブストーリー』では、絵コンテやキャラクター設定画、背景美術などが展示されていた。クレしん映画の絵コンテや原画はなかなか表には出ないものなので、こうして見られるのは結構貴重だ。それにしても、シンエイ動画作品のコンテは細部まで丁寧に描かれているのが特徴なのだけど、それもこれも元は『ドラえもん』の芝山努監督の絵コンテの影響が、後々の代までに受け継がれているということなんだろうな。
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ちなみに、キャスト全員のサインが描かれたロボとーちゃんの頭部も展示されていた。サインの中に園長先生役の
納谷六朗さんのもあって、これまたしんみりさせられた。
『
たまこラブストーリー』のほうは、冒頭のもち蔵がたまこに向けて糸電話を投げようとするシーンの絵コンテと、京都駅に走って向かうたまこの原画、キャラクター設定画、そして映画研究部室の美術設定画などが展示されていた。美術設定には、おそらく
山田尚子監督のOK印であろう「尚」印が押されていて、こういう細かいところまで見られるのも資料展示の魅力の一つだ。
アニメーション
部門の展示をあらかた見たところで、『
たまこラブストーリー』の上映時間が迫っていたので、急いでシネマート六本木へ。
このシネマート六本木は、アジア映画を中心に上映していた映画館だったが、賃貸契約満了に伴い、今年6月14日をもって閉館することが決まっている。毎年メディア芸術祭の上映会はここで開催されていたのだが、来年はTOHOシネマズ六本木あたりに会場が移るのだろうか。
そこで『
たまこラブストーリー』の上映を鑑賞後、いよいよ
山田尚子監督と、今回の審査委員でモデレーター(いわゆる司会)の髙橋良輔監督が登場しトークショーが行われた。トークはときどき雑談を交えつつも、髙橋監督が『
たまこラブストーリー』に対しての印象を、日本アニメの歴史と照らし合わせて語っていて、とても興味深い話だった。そんな髙橋監督に対し、終始恐縮しまくりな
山田尚子監督の姿がとても可愛らしかった。
トークの詳しい内容は、上記の記事でまとめてくださった方がいるので、そちらを参照してもらうとして、自分が特に興味深いと感じたのは、
山田尚子監督が
虫プロの『哀しみのベラドンナ』を見て衝撃を受けたという話や、足のカットを多く描く理由というところ。正直『
哀しみのベラドンナ』は、自分はほとんど知らなかったのだが、聞けば
『輪るピングドラム』の幾原邦彦監督にも多大な影響を与えたアニメ映画と聞くので、機会があればぜひ観てみたい。足のカットを多く描く理由として、
足は机の下に隠れてしまって人には見えないから、それだけ本能が出やすい部分だからというのが、山田監督の洞察の鋭さを思わせた。
あと、髙橋監督の話で面白かったのは、絵を描くのがものすごく好きで、15時間くらい平気で座って描けるような子が、人と話すのが苦手なゆえに面接に落ちてしまうという話。本来ならば、こういう人たちをもっと雇うべきだと髙橋監督が持論を述べていたが、そういえば『SHIROBAKO』でも人と話すのが苦手な新人アニメーターが登場しているが、そういうアニメーターは案外業界に多いのかもしれない。確かあの湯浅政明氏も初期の『クレしん』の原画を描いていた当時は、人と話すことはほとんどなかったと聞くしなあ。
トークの最後、観客からの質問で、ライバルとして意識している作品やクリエイターがいるかの質問に、山田監督は
「仕事につくまでは誰の作品が好きとかはありましたが、いざ自分が演出になったあたりから、物を作る人すべてが憧れでありライバルになりました」と、物を作ることの素晴らしさと、それを作り出すクリエイター全てに対しての敬意を明るく語っていたのがとても印象に残った。そんな姿を見て、これからも
山田尚子監督の作品はずっと追っていきたいと強く思ったトークショーだった。
さて、来年は果たしてどんな作品が受賞するのだろうか。個人的には、今年公開の
原恵一監督の『百日紅』と、
細田守監督の『バケモノの子』が揃って受賞して、
原・細田両監督の生対談なんてのを聞いてみたいところだが。