ぬるオタな日々 by 少恒星

アラフォー独身のぬるオタの日々戯言。

DVD-BOX発売記念『エスパー魔美』の(アニメファン的)注目点

先日10月29日に『エスパー魔美』のアニバーサリーDVD-BOXが発売された。

 
エスパー魔美』のDVD-BOXは、8年前の2006年にも上下巻の2巻で発売されたが、今回のDVD-BOXは、TVシリーズ全話収録で、パイロットフィルムなどの特典映像(2006年発売時は上下巻の連動応募特典DVDに収録)も収録したのに加え、劇場版『星空のダンシングドール』が待望の初DVD化という仕様になっている。値段も、以前よりグッと安くなって買いやすくはなっていると思う。

藤子・F・不二雄先生の傑作漫画のアニメ化作品ということでおすすめしたいのももちろんであるが、このアニメ『エスパー魔美』は、現代アニメを語る上においても重要な作品であると私は思っている。今回は、このアニメ『エスパー魔美』について、アニメファン視点で注目すべきところを語りたい。
 

原恵一のテレビアニメ初監督作品

まず何より注目すべきなのは、この作品は『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』や『河童のクゥと夏休み』などで知られる原恵一のテレビアニメ初監督作品だということだ。(役職名はチーフディレクターになっているが。)
それ以前は『ドラえもん』の演出に入っていた原だったが、その活躍ぶりが認められてチーフディレクターに抜擢されたのだった。
 
最近の原監督作品は、登場人物の動作の繊細さや、実写映画的な演出が特徴なのだが、実はすでに『エスパー魔美』のころから、そうした演出を試みていたのが伺える。魔美といえばヌードシーンというキャッチーなイメージが付き物なのだが、アニメ本編はそんなイメージを忘れさせるほどに、抑制的で情緒な演出が見どころだ。『オトナ帝国』をきっかけに名を馳せた原だが、彼の本流はむしろそっちのほうと言える。
 
特にそれが際立っていると思うのは、このたびめでたく初DVD化された劇場版『星空のダンシングドール』だ。原監督作品の原点と言ってもいいほど、人物の繊細な動作を丁寧に描き、そして実写映画を見ているかのような落ち着いた演出で、観客を魅了してくれる。物語の後半、夢を諦めて故郷へ帰る人形劇団座長の英樹と朋子の別れのシーンには、日本映画的な情緒を思わせてすっかり涙させられる。『エスパー魔美』の劇場版という枠を超えて、一つの映画作品としてももっと評価されてもよい作品だと思う。
 

京アニProduction I.Gが下請けに関わっていた

今や現代アニメをリードする存在の京アニこと京都アニメーションだが、もともとは動画・仕上げの下請けから始まった会社というのはご存知の人も多いだろう。その京アニは、この『エスパー魔美』からシンエイ動画作品の動画・仕上げに関わるようになり、その流れで『チンプイ』『21エモン』、そして現在の『クレヨンしんちゃん』に至っている。『あたしンち』や『ジャングルはいつもハレのちグゥ』ではグロス請けを行い、その後の京アニ作品の基礎を作り上げた。
 
そしてもう一つ下請けを担っていたアニメスタジオが、アイジータツノコ現在のProduction I.Gである。もともとは『赤い光弾ジリオン』の制作スタッフたちを引き継いで作られたアニメスタジオであるが、アイジータツノコという会社組織として設立されたのは1987年12月のことである。
 
そのI.Gが『エスパー魔美』に関わりはじめたのは、その翌年1月19日放送回の「スズメのお宿」からである。その回の演出・絵コンテは貞光紳也、作画監督にはアイジー創始者の一人である後藤隆幸だった。つまり『エスパー魔美』は、I.Gが会社組織となって初めて関わったアニメ作品なのだ。後藤氏が作監に関わったのはこの1回きりだったが、その後、ほぼ月1の割合でI.Gが制作を担当した。
 
I.Gが『エスパー魔美』の下請けに関わることになった経緯については、はっきりとした出典はないのだが、おそらくI.G設立の際に出資し、自らも下請けだった京アニからの力添えによるものだということは容易に想像できる。
 
I.Gにとっても『エスパー魔美』に関わったことは重大な意味を持っているようだ。以前ネットの生番組で、石川光久社長は、影響を受けた作品はと聞かれて答えたのは、『攻殻機動隊』でも『ジリオン』でもなく『エスパー魔美』だった。石川社長が言うには、『エスパー魔美』こそIGの25年の礎となった作品だといい、また別のインタビュー記事(※)では具体的な話数も挙げ、IG担当回だった「雪の降る街を」(1988年2月23日放送回)を挙げていた。藤子・F・不二雄先生の紡ぐ夢のあふれるエピソードに大いに惹かれ、IGもまた多くの人に夢を与えるアニメを作りたいと思うようになったという。
 
※残念ながらそのネット記事は、現在消去されてしまっているのが残念。他に言及されているのはせいぜいこの記事ぐらい。
 
I.Gといえば『攻殻機動隊』シリーズなどに代表されるようにSF・アクションに強いイメージがあるが、他方で『ももへの手紙』や『ジョバンニの島』などといった幅広い層に向けた正統派な作品も送り出しているあたり、その路線はおそらく『エスパー魔美』のころからすでに始まっていたのだろう。やがて90年代後半に入り、I.Gは押井監督作品でその名をアニメ界に轟かせる傍らで、『エスパー魔美』からの流れで『チンプイ』『21エモン』、そして『クレヨンしんちゃん』のグロス請けを担う。この繋がりができたことで、『クレヨンしんちゃん』の劇場版に、荒川真嗣や安藤真裕といった当時のI.G主力アニメーターも参加し、クレしん映画が確固たる地位を築くことになったのは特筆すべきことだろう。
 
そうしてI.Gは26年間、自らの歴史と共にシンエイ動画作品の下請けをやっていたわけだが、残念ながら2014年4月を最後にI.Gは『クレヨンしんちゃん』の下請けから降りている。長年I.G担当で演出をやっていた貞光紳也氏が引退されたからという噂も聞くが、その理由は定かではない。シンエイ作品を通じてI.Gの仕事ぶりを見ていた者としては寂しい限りである。
 
しかし来年、I.Gは『エスパー魔美』のチーフディレクターであった原恵一を監督に迎えて、劇場新作の『百日紅(仮題)』の公開を予定している。かつては原監督の下で、下請けをやっていたI.Gが、今度は元請けとして監督を迎える立場になったのだ。『百日紅』の公開が近づいた折には、ぜひとも原監督と石川社長の対談をやってほしい。『エスパー魔美』の話題がもっと詳しく聞けるはずだ。 
 

『SHIROBAKO』の水島努が制作進行をやっていた

まあ、これは半分ネタみたいなものだが、この『エスパー魔美』には、『ガルパン』などでお馴染みの水島努も制作進行として関わっていた。そして、現在放送中の『SHIROBAKO』では、水島自らがモデルとされる高梨太郎という制作進行が登場する。これがまたムカつくいい加減な奴なのだが、ということは太郎は制作進行時代の水島を投影しているというのか。
 
そう思うと、この『エスパー魔美』を見る目もだいぶ変わってくる。水島の制作進行担当回を見るたびに、こんな心暖まるエピソードが描かれた裏で、彼はどんなことをやらかしていたのか、どんな修羅場が繰り広げられていたのか、舞台裏をあれこれと想像できてしまって、別の楽しみが生まれてしまうのだ。これまで、あるいはこれから『SHIROBAKO』で描かれるエピソードも、もしかしたら『エスパー魔美』での経験談が反映されているかもしれない。今回DVD-BOXを買った人には、それも念頭に置いて見てもらうと、なお楽しめるのではないかと思う。
 
 
主にスタッフ・制作スタジオの面から注目点を語ってしまったが、知れば知るほど興味深く見ることのできるアニメということはお分かり頂けただろうか。
もちろん、それを抜きにしても純粋に一アニメ作品としておすすめしたいし、『エスパー魔美』の原作漫画しか知らない人も、アニメオリジナルのストーリーは原作に勝るとも劣らない出来なので注目してほしい。
 
ちなみに筆者は、2006年発売のDVD-BOXは購入済みなのだが、
その当時のDVD-BOXには劇場版は未収録なわけでして・・・。
 
あのう・・・劇場版DVD、単品発売してくれませんかねえ?