今年も文化庁メディア芸術祭の受賞作品展が9/16(金)より開催され、先日、会場の日本科学未来館を訪れた。
このメディア芸術祭については、毎年結果が発表されるのを楽しみにしていて、受賞作品展や上映会も、機会があればたびたび訪れていた。国の省庁である文化庁が主催・顕彰する賞と聞くと、いわゆる国の権威高揚目的だとかプロパガンダ的な印象を抱かれそうが、この賞を審査しているのは、芸術には疎かろう国会議員や官僚ではなく、その道のプロや専門家が行っており、比較的中立性や公平性が担保されていると信じている。実際、これまでの受賞結果を見るに、たとえそれが商業性の強い作品だろうが、(国にとって)都合が悪い内容だろうが、反道徳的な内容を含もうが、顕彰されるに相応しい作品が選出されていたと思う。「子どもたちに見せたくない番組1位」と言われた『クレヨンしんちゃん』の映画『アッパレ!戦国大合戦』が2002年度のアニメーション部門大賞を受賞*1したのがその代表例だろう。
漫画やアニメなどのコンテンツは、昨今は新海誠監督作品や『鬼滅の刃』の記録的大ヒットの影響で、興行収入やPV数などといった、いわゆる定量的観点で評価されることが目立つようになった。だがそれは、定量的な結果を優先させるあまり、その亜流、悪く言えば二番煎じともとれる作品が乱発され、コンテンツの可能性や多様性を狭めてしまう。作品には、作家性や芸術性、批評性や社会性など数値では測れない定性的な要素も込められる。その視点から作品を評価する点でも、メディア芸術祭の存在は大きかった。芸術祭での受賞を機に、作家・芸術家として大きく羽ばたいた人も少なくない。
そんなメディア芸術祭が、令和4年度の作品募集は行わず、どうやら今回限りとなるようだ。毎年追っかけてきた者としては何とも寂しいし、同時に理解できない。この国の産業が低迷していく中で、唯一世界に立ち向かえるのが、コンテンツ産業だというのに、その可能性を潰すだなんて・・・。後継のイベントを検討しているのかも知れないが、せっかく四半世紀も続けてきたことを、今やめる意味があるのだろうか。
腑に落ちない感情を抱いたまま、先日9/17(土)に受賞作品展を訪れ、お目当てのトークセッションと作品展示を鑑賞。まずは、エンターテインメント部門大賞の『浦沢直樹の漫勉neo 〜安彦良和〜』受賞者トークセッションへ。
番組発案者の漫画家・浦沢直樹先生を始め、プロデューサーの上田勝巳氏、放送作家の倉本美津留氏が登壇。『漫勉neo』の制作意図や背景、撮影の舞台裏などを振り返り、浦沢先生が時折冗談や裏話を交えながら、この番組に対する思いを語ってくれた。白い紙から作品が生まれる瞬間を知ってほしいという思いや、漫画に対する恩情を込めた浦沢先生らによる1時間半のトークは、終始興味深くとても楽しかった。
メディア芸術祭のトークセッションは毎年開催されているが、以前はもっと活発に行われていて、受賞者同士でシンポジウムが行われたこともあった。2010年度のときは、片渕須直氏、原恵一氏、湯浅政明氏の3人が揃って登壇*2という、今ではなかなかお目にかかれない光景も。
文化庁メディア芸術祭。以前は受賞者のシンポジウムが活発に行われていて、今では信じられないような顔ぶれが揃ったこともあったんだよね。
— チューシン倉@少恒星(無職) #NoWar (@chusingura) 2022年8月24日
2010年度のときは、片渕須直、原恵一、湯浅政明の3人が揃って講演してた。https://t.co/oEvR583wS0 pic.twitter.com/cXokZdokSf
その後、受賞者のトークは作品上映と合わせて行われるようになり、山田尚子監督のトークが行われたときは、しっかり足を運んでいた。
『たまこラブストーリー』の上映&トーク終わりました。司会の高橋良輔監督の前で終始恐縮しっぱなしだった山田尚子監督の姿が可愛らしかった。山田監督、今後のご活躍期待してます。 pic.twitter.com/c4GPj4Nsij
— チューシン倉@少恒星(無職) #NoWar (@chusingura) 2015年2月11日
京アニ感謝祭のサイン会は外れたけど、代わりにご尊顔をちゃんと拝んできます。『聲の形』トーク付き上映!
— チューシン倉@少恒星(無職) #NoWar (@chusingura) 2017年9月18日
無料で観れるのはありがたい。 #文化庁メディア芸術祭 pic.twitter.com/kWugJ5eHUn
だがそれも、回を重ねるごとに減り、以前と比べると規模が縮小されている印象が否めなかった。今思えば、運営の予算が徐々に減らされていたのかもしれない。こうしてクリエイターの話を楽しく聞ける機会が、とうとう無くなってしまうのは忍びない。
トークセッション後は、受賞作品展へ。主な目当てはアニメーション部門受賞作の資料展示だが、その他の部門の受賞作も合わせて展示やデモンストレーションが行われており、ユニークな作品ばかりで面白い。現代アートには疎い自分でも、そのアイデアや独特の視点に驚かされ、まだまだこの国のコンテンツには可能性が残されているのだと実感する。作品展は過去にも何度か訪れたが、そこで初めて存在を知り、やがて好きになってしまった作品もあったので、作品との出会いの場はやはり必要なのだ。
展示を見終わったあと、いつもならすぐ済ましてしまうアンケートの意見欄に、メディア芸術祭の存続を願うコメントを書き残しておいた。「文化に金をかける必要は無い」「人気のある作品だけ残ればいい」とかそんなこと私は望んではいない。もっといろんな作品に出会い、そして作り手の思いを感じ取れる機会をまだまだ残してほしい。