ぬるオタな日々 by 少恒星

アラフォー独身のぬるオタの日々戯言。

映画監督、山田尚子を応援したい。~『映画 聲の形』感想~

2年前、『たまこラブストーリー』の公開時に、私はこんなことを書いた。

chusingura.hatenablog.jp

劇場アニメ、いや「映画」こそが山田尚子監督が一番力を発揮できる場所ではないか。
だったら、次は劇場オリジナル作品で勝負してもらいたい。そんなことを常々考えていた。

それから時が流れ、9月17日。
人気コミックの劇場アニメ化という形ではあるが、彼女にとっては、テレビアニメの劇場版ではない、初めての単体の映画監督作品が公開された。それが『映画 聲の形』だ。

 

koenokatachi-movie.com

 

もともと自分は『聲の形』の原作コミックを読んでおり、とても胸を締め付けられた。そしてこれを誰か劇場アニメ化してくれないだろうかと、あれやこれやと夢想していたのだが、まさか京都アニメーションで、それも山田尚子監督で映画化されるとは予想外だった。
しかし、これ以上のうってつけの人はいないと思ったのもまた事実。それだけにどれほど指折り数えてこの映画の公開を待っていたことか。

 

素晴らしい。もう山田尚子監督は、一映画監督として、一映像作家として確固たる地位を築いたのではないかと思う。全七巻を見事に再構成し、そのうえ登場人物の動きや映像表現で、彼らの置かれている状況や心理を説明できてしまう演出力の高さに唸らされる。牛尾憲輔氏の劇中音楽も素晴らしい。パンフのインタビューなどでも音楽制作にあたっては、密度の濃いやり取りがあったというから、まさに二人三脚となって作り上げた映像と音楽の融合美と言えよう。

かといって、要所要所では音楽を使わず、まるで実写映画を観てるかのごとく、声優の「生っぽい」演技と、周囲の環境音だけで、その場面の重みを見せてしまうのもまた凄い。凡百の実写映画監督は、この演出力を見習えと言いたくなるほどに。そうした要所で音楽に頼りすぎないところが、あらゆる感情が爆発したラストシーンに、より効果的に生きてくるのだ。

原作既読者としては不満がない訳でもない。植野や結絃たちの各キャラをもっと掘り下げて描いてほしかったし、硝子の母や、祖母の「いと」らの大人たちのドラマもちゃんと入れるべきだった。硝子の両親が離婚した背景を、原作で読んだときはかなり辛いものだったが、あれがないことで彼女らの存在感が薄れてしまった感が否めない。また、七巻分を凝縮したゆえに、展開が駆け足になっている感もあった。演出的にはもっと溜めを作って見せてほしいシーンも多々あった。これでも129分とアニメ映画としては長尺だが、それでもこの映画には足りない方だ。

しかし話の着地点を、将也が周囲の世界と向き合い、そして受け入れるところに置いたことで、この物語の焦点がはっきりしたものになった。聴覚障害だとか、いじめの問題だとかに囚われがちになるところを、将也の物語であり、彼の再生の物語であることを認識させられる。原恵一監督の『カラフル』に近い作りといえる。

そしてその将也を取り巻く世界を、山田監督は暗く描こうとしない。メイキング特番で、背景美術に雲を描かせなかった理由として彼女はこう語っている。


映画「聲の形」公開記念特番 ~映画「聲の形」ができるまで~ ロングバージョン

「将也の心を描くにあたって雲が邪魔だったんですよね。 将也は音を聞かないように、見えないようにして自分で自分を閉じ込めてしまっているんで、それを取り巻く世界までが塞ぎ込んで見えるのはイヤだなと思って。なので今回雲が邪魔、というか必要ないと思うところがいくつかありました。」

それはつまり、世界は多幸感に満ちており、罪を犯した将也をも受け入れるということを表しているかもしれない。『けいおん!』の頃より、そうした世界を描いてきた山田尚子監督だったが、その姿勢はここでも一貫している。そんな一貫性を保ちつつも、『けいおん!』の頃のゆるふわな空気感とはまた違う、もっと深く、希望に満ち溢れた世界を描ききってみせた。彼女はさらなる高みへと登りつめたように思う。

と、同時に『けいおん!』の頃の、あのゆるふわな世界にはもう戻ってこないのかなあとも思ってしまう。「ふわふわしてるの、キツいんだよね」と唯が言ったように。(『映画けいおん!』冒頭より。)
そう思うと、なんだか少し寂しくもある。

とはいえ、やっぱりその気があるのなら、
山田監督には引き続き「映画」を撮り続けていってほしい。
純粋に一映画監督として、これからも彼女の作品を追っていきたくなった。

 

【余談】
ところで、山田監督だけど、最近になって京アニ入社が2004年ということが明らかになった。
しかし彼女の出身大学である京都造形芸術大学は4年制しかない。
当初伝えられていた1984年生まれだと計算が合わないのだ。

ということは、もし浪人していなかったとすると・・・

俺と同じ198●年生まれ!?

それが事実としたら、私がハマった『けいおん!』は、
自分と同い年の手によって生み出されたということなんだな…。
そう思うと、なんだか親近感が湧くと同時に、一種の敗北感をも味わってしまう…。

  

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