『エヴァンゲリオン』『シン・ゴジラ』などでお馴染みの映画監督・庵野秀明氏の足跡を、彼が生み出した作品の膨大な資料を通じて振り返る展覧会。アニメ監督にスポットを当てた展覧会としては、2019年から全国巡回開催中の「富野由悠季の世界」があるが、コンセプトとしてはそれに似通ったところがある。
始めに紹介されるのは、クリエイター庵野秀明を生み出す原体験となった、彼が少年時代に触れた数々の特撮やアニメ作品の模型や衣装、大道具、作画などの貴重な資料群だ。中にはこの展示のために初公開したものや、海外から持ち込まれたものもあり、いかに彼が熱を上げていたかがよくわかる。これだけでも特撮・アニメの展示会としては十分見応えがあり、アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)を自ら立ち上げるほどに、アニメ・特撮を文化として後世に残したいという庵野氏の強い意思が現れているように思う。
それらの作品に刺激を受けた庵野氏は、いよいよ創作の領域に踏み込んでいく。会場内では、学生時代に制作した特撮「帰ってきたウルトラマン」や、ダイコンフィルムのアニメーション作品も上映されていた。これまで『アオイホノオ』などの関連書籍やYouTubeなどで断片的にしか見れていなかった自主制作時代の作品を、ようやく鮮明な映像で見ることができたのは嬉しかった。噂には聞いていたがやっぱり凄い。「帰ってきたウルトラマン」は、庵野氏が特撮をよく研究して作られているのがわかり、自主制作とは思えないほどの圧倒的な完成度。ダイコンのオープニングアニメも、本当に生命がそこに宿っているかのような躍動感のある動きで、今となっては手描きで作られているのが信じられないほど。島本和彦氏が打ちひしがれるのもよく分かる。
そして『超時空要塞マクロス』や『風の谷のナウシカ』に参加し、商業作品の世界に足を踏み入れていく。その当時の作品資料も貴重だったが、『ナウシカ』のコーナーでは、宮崎駿監督らスタッフが、庵野氏の様子を書いた落書きまでも展示されていて、当時の現場の雰囲気が伝わってきて、なかなか笑えた。その横には、宮崎監督と庵野氏の2ショット写真も。この二人もだんだん親子のように似てきたなあ。
やがて監督として『ふしぎの海のナディア』『エヴァンゲリオン』シリーズなど多くの作品を手がけていくが、そのいずれにおいても、常に挑戦に満ちあふれた庵野氏のこだわりを感じる。そのこだわりは、彼が親しんできた映像作品の原体験によって裏打ちされたものであり、それはいよいよ再映像化という形で恩返しを果たそうとしている。
見尽くすのに4時間以上もかかるほどの大ボリュームだったが、映画監督・庵野秀明の足跡に圧倒されると共に、今後の活動に大きな期待を抱かせる充実した時間だった。