2021年に観た映画の中で最も印象に残ったのは、やっぱり何と言っても『シン・エヴァンゲリオン劇場版』だった。特に、宇部新川の空中俯瞰で締めくくられるラストシーンには衝撃を覚えたと同時に、まさに庵野秀明監督の集大成であり私小説でもあったと強く感じた。
そんなラストシーンに強く惹かれ、私は庵野監督の故郷である山口県宇部市を訪れることにした。
宇部新川駅
出雲市から特急「スーパーおき」で一気に新山口まで移動し、新山口で一泊*1。翌日2月10日、宇部線の宇部新川行きに乗って目的地に向かう。電車は1時間ほどして宇部新川駅の3番線ホームに到着。ちょうど劇中でシンジが座っていたホームに到着した。
降りた瞬間に、ラストシーンの光景が視界に飛び込んでくる。なんだかシンジになったかのような気分を覚え、普段は一ローカル線の駅に過ぎない宇部新川駅が、特別な場所に思えてくる。
宇部新川駅の跨線橋。シンジとマリが駆け抜けた場所だ。そういえば、ロケハンでも庵野監督が全力疾走して撮影していたっけ。*2
同じカットを自分で撮影してみると、いかに美しい構図なのかがわかり、庵野監督の美学が徹底されていたことを改めて思い知る。
www.youtube.comしばらくして1番ホームに、宇部方面行きの電車が接近し、劇中と同じメロディーとアナウンスが構内に流れる。ますます『シンエヴァ』の世界に入り込んだかのようだ。
駅スタンプと使用済みスタンプをゲット
www.eva-info.jpちょうど宇部市制施行100周年を記念したエヴァとのコラボイベントが実施中で、宇部新川駅構内にはエヴァの駅スタンプが設置されていた*3。というわけで、台紙2種類と合わせてスタンプをゲット。さらに、乗車券にエヴァデザインの使用済みスタンプを押してもらった。
ビジュアルポスターの場所へ
改札を出ると、そこはもちろんラストシーンと同じ宇部新川駅前の光景。初めて来た場所なのに、なぜか久々に故郷に帰ってきたかのような感覚だ。
駅前を少し見渡してから、琴芝駅方面に歩いて向かったのは島通踏切。ビジュアルポスターのモデルとなった場所だ。信号機や車止め、さらには線路の先にある真締川の鉄橋も含めて、ほぼ忠実に描かれていることがわかる。ポスターのほうをよく見ると、分岐器が2つ描かれており、察するに、ここからやや宇部新川駅寄りの場所から撮られたものと思われる。そこはさすがに線路内になってしまうので、立ち入ることはできない。
西海岸通踏切
#シンエヴァ宇部聖地巡礼 をやってみて新たに分かったのは #エヴァQ で既に宇部は登場していたということ。フォースインパクトが発動してガフの扉が開くシーンで映る2カット。1カット目はおそらくANAクラウンプラザホテル宇部から中央町2丁目方面を撮ったもの、2カット目は西海岸通踏切。#シンエヴァ pic.twitter.com/NUCVkxp5bf
— ゆきなみ (@yukinami_jp) 2021年4月29日
それから宇部市内を散策し、庵野監督の原風景を探る。西海岸通踏切は、『Q』と実写映画『式日』に登場した踏切。劇中の場面は宇部湾岸道路完成前の光景で、現在とはだいぶ印象が異なるが、踏切のカーブミラーやガードレールはだいぶ錆びており、おそらく当時のものがそのまま残っていると思われる。
宇部興産工場群
成長したシンジが勤めている(と思しき)宇部興産の工場群。午前中に訪れたときは、工場内の道路は大型トレーラーやトラックがひっきりなしに通っていて、気軽に歩ける雰囲気では無かったが、午後になると交通量は落ち着き、行けるところまで見回ることができた。複雑に入り組んだ配管と、煙突から止むこと無く煙がモクモクと上がる光景を見ると、工場というよりは秘密基地のようにも見えてきた。
太陽家具宇部本店跡地
#シンエヴァ ラストの空撮映像にCGで追加されたと思われる太陽家具のビルは庵野監督の2000年製作の実写映画『式日』にも登場するので(👇写真参照)、監督にとって思い入れのある建物なのかもしれません。取り壊されたはずのビルが現在の景色の中に時を超えて存在しています。#シンエヴァ宇部聖地巡礼 pic.twitter.com/WVjN0zOqkc
— ゆきなみ (@yukinami_jp) 2021年4月13日
『式日』では「彼女」の住処として登場し、そして『シンエヴァ』でわざわざCGを作って登場させた太陽家具宇部本店。その跡地には、1階に川崎美術館を併設したマンションが建っている。いつかはこの美術館で、庵野監督の展覧会が開かれる日が来るだろうか。
銀天街
その近くには、同じく『式日』に登場した商店街「銀天街」がある。劇中でカントク(岩井俊二)と彼女(藤谷文子)が、商店街の屋根を歩くシーンがあったが、その商店街こそここだろう。しかし、この商店街もシャッター街と化しており、現在も営業しているのは、見たかぎり数店舗ほど。付近には庵野監督が通っていたという喫茶店もあったが休業中だった。
そんな寂れたシャッター街で、エヴァのシャッターアートを発見。いっそのこと、シャッターアートで銀天街を埋め尽くしてくれれば、再び活気が戻ってきそうな気がするが・・・。
庵野監督が中学時代に描いた油彩画の場所
ところで市内を散策して、ふと思い出したのが「庵野秀明展」で展示されていた一枚の絵。
庵野監督が中学時代に描いたという油彩画。遠くには煙の上がる工場群。川には小舟らしきものが漂っており、その川には鉄橋が掛かっている。この絵は果たしてどこを描いたものだろうか。そこで、地図を見て調べた結果、ここにたどり着いた。
宇部新川駅の一駅隣、居能駅から徒歩5分。正解かどうかはわからないが、煙突と鉄橋、そして小舟が停泊していることから、ここがおそらく庵野監督が描いた油彩画の場所だろう。川と思っていたのは、正しくは栄川運河に繋がる入り江だったようで、この小舟も運河を通って瀬戸内海へ出て漁に行くのだろう。油彩画のほうは、入り江が小さく描かれているのが気になるが、描かれたのがもう47年前なので、その間にだいぶ整備されたのかもしれない。とはいえ、庵野監督の原風景を、実際に探し当てることが出来たのは何よりだった。
まとめ
今回はいつもの聖地巡礼とはやや趣が異なったが、散策してみればみるほど、宇部新川と庵野秀明は、切っても切れない縁で繋がっているのだと実感できた。来る次回監督作品『シン・仮面ライダー』にも、果たして宇部新川は登場するのだろうか。あるいは、またここを舞台に一本映画を撮ることになるのだろうか。いずれにせよ、庵野監督作品の象徴的存在として、宇部新川はこれからも語り継がれるに違いない。