今や国民的人気を誇るスタジオジブリ映画の数々。だが、それらを公開当時、映画館で観たという人は果たしてどれくらいいるだろうか?近年の作品ならまだしも『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』といった初期作品ともなれば、だいぶ限られてくるではなかろうか。
かくいう私も、今でこそ週一単位で映画館に足を運ぶが、成人する前は映画館に行ける機会はそう多くなく、ジブリ映画はほとんどテレビが初見だった。それだけに去年、ジブリが過去作(『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』)を映画館で上映してくれたのはとても有り難かった。映画館のスクリーンと大音響で観ると、それだけ画面に重厚感が増し、テレビよりも数倍、いや十倍ほども違う迫真の映像が、自分の身に襲いかかる。だから映画館通いはやめられないのだ。
さて、そのジブリ映画が、再び映画館で観られる機会が巡ってきた。『魔女の宅急便』が、国立映画アーカイブの上映企画「1980年代日本映画―試行と新生」のラインアップの一つとして上映されることになったのだ。
国立映画アーカイブは、日本で唯一の国立映画専門機関であり、映画フィルムや関連資料を収集し、その保存・研究・公開を通して映画文化の振興をはかることを目的とする、日本最大のフィルムアーカイブだ。映画館というよりは、むしろ教育・研究目的の意味合いが強い施設なのだが、ここでは同館が所蔵する映画フィルムを(休館日を除いて)ほぼ毎日ホールで上映しており、名画座へ行く感覚で映画を楽しめる。観覧料はなんと一般520円。名画座でも2本立て上映でだいたい1500円くらいは取られるが、その半分以下で鑑賞できる。国立の施設だからこその安さだろう。
映画館やシネコンはだいたい繁華街かショッピングモールにあるが、国立映画アーカイブは京橋のオフィスビル街の真っ直中に位置する。一見して映画館とは思えない外観だが、このビルの2階にある長瀬記念ホールOZUで映画が上映される。ちなみに、B1階には小ホール、4階には映画関係の雑誌・書籍等が閲覧できる図書室、7階は映画関係の資料を展示した展示室(有料)がある。映画館というより映画博物館と呼んでも差し支えなかろう。映画を観るついでに、図書や展示を見て、映画の世界をさらに深く知るのも一興だ。
2階のホールに入り、いよいよ『魔女の宅急便』が上映される。感染症対策により収容数が半分に減らされていたが、平日にもかかわらずこの回はほぼ満席。子供の姿は無かったが、学生から若年層の女性、常連っぽいシニア層まで幅広い世代が足を運んでいた。上映素材は、現在主流のDCPではなく、基本的に35mmフィルムで上映される。今ではすっかりデジタル化が進み、『魔女の宅急便』もテレビやBlu-rayで鮮明な映像を観られるが、公開当時はまだアナログのフィルム上映の時代。つまり、公開当時の質感や雰囲気そのままに、映画を味わえるのだ。当時映画館で観た人にとっては、その懐かしい思い出がそのまま蘇ってくることだろう。
デジタルの画面に慣れきってしまった今となっては、フィルム上映の映像は少しぼやけて見えるし、時折乱れや雑音も入るので、見づらいと感じる場面もある。しかし、劣化の激しいフィルムだと、映像が切れたり変色したり、また映写機のトラブルで上映が中断したりなんてことも起こる。それらと比べれば、国立映画アーカイブが所蔵するフィルムは保存状態は断然良く、映像は比較的きれいだ。また、作品によっては新しくフィルムをプリントすることもあり、デジタル化が進む現代になっても、後世にフィルムを残していこうという姿勢が伺える。
ユーミンの主題歌が流れると、その大音響が場内に響き渡り、一気に没入感が高まる。それからスクリーンいっぱいに、キキの様々な表情が映し出され、時に微笑ましく、時に心配し、時に感動したりと、いつの間にか子供の成長を見守るような視線で観ていた(子供いないけど。)。ジジの可愛らしい動きには、観客からも笑いが漏れる。終盤、トンボを助けようと再び飛び立つキキの逞しさには、すっかり圧倒されてしまった。テレビで何度も観ているはずなのに、今回が一番感動したように思えた。やっぱり映画館という空間が、一番映画を楽しめる場なのだと改めて実感した。
この上映企画「1980年代日本映画―試行と新生」は5月5日まで続き、『魔女の宅急便』は3/28(日)16:10~と4/24(土)12:50~の、あと2回上映が予定されている。(※どちらの回もすでに完売)
また、アニメでは『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』『じゃりン子チエ』も上映予定なので、そのときも足を運ぶつもりだ。