ぬるオタな日々 by 少恒星

アラフォー独身のぬるオタの日々戯言。

最近見た映画の感想

タイトルのとおり、最近見た映画の感想を3本ほど。

『キネマの神様』(2021年・山田洋次監督)

movies.shochiku.co.jp

当初は志村けん主演で制作予定だったが、既知の通り新型コロナ感染により逝去。その代役を、長年の盟友だった沢田研二が演じた。

志村けんが「俳優」として映画の主役を張るのは、おそらくこれが初めてになるはずだった。その姿をたっぷり拝めるのを楽しみにしていただけに、訃報を聞いたときのショックは計り知れなかった。志村けんじゃなきゃ意味がないとまで思ったけど、その遺志を山田洋次監督以下スタッフ・キャストが引き継ぎ、完成にこぎつけた。

沢田演じる現在のゴウは、無類のギャンブル好きで借金を抱え込み、妻の淑子(宮本信子)と娘の歩(寺島しのぶ)にも見放されるダメ親父として登場する。現代パートのゴウの情けない様は、明らかに志村を当て書きして作られたとしか思えない。現に「東村山音頭」まで歌わせているし。晩年の作品である『となりのシムラ』に近い雰囲気を感じる。ゆえに現代パートの彼の立ち回りの一つ一つに、どうしても志村けんを意識せずにはいられず、時々彼の幻影が浮かんでは消えた。

かといって、決して沢田研二がミスマッチというわけではなく、むしろ彼なりにゴウのキャラクターを築き上げて、役に違和感なく溶け込んでいたので、見事に重責を担ってくれたと言える。近年はライブをバックレたりなんてこともあったけど、これでも一応『太陽を盗んだ男』ですからなあ。

 

『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』(2021年・高橋渉監督)

www.shinchan-movie.com

気づけばクレヨンしんちゃんの映画も29作目。来年には30作目という節目を迎えるという事実が衝撃・・・。

さておき、今年のクレしん映画。 ファンの間では大評判になっていて気になっていたが、公開から一週間遅れてようやく鑑賞。何かと『オトナ帝国』と『戦国大合戦』という二大傑作と比べられがちだが、そもそもその二つは最高傑作であると同時に、シリーズの中でも異色作でもあると思っていて、それだけでクレしん映画の何たるかを語るのは間違っている。もちろん、一時期はその呪縛に囚われていたことも確かにあったが、今はだいぶ吹っ切れていて、ここ5、6年ぐらいはだいぶ「クレしん映画」らしい、初期作品にも勝るとも劣らない完成度になっていると思う。

だから今年も、出来についてはそんなに心配していなかったが、その期待も遥かに超え、少なくともここ数年のなかではトップクラスの傑作だった。

注目すべきは、しんのすけらが体験入学する「私立天下統一カスカベ学園(通称:天カス学園)」の教育システムだ。天カス学園にはオツムンと呼ばれるAIが存在し、AIが生徒の成績や生活態度などを評定し、模範的と判断されればポイントが加算され、貯めれば良い待遇を受けられる。逆に成績や素行が悪ければ、ポイントは減点され、待遇も悪くなってしまう。まさに完全能力主義を掲げるエリート校だ。風間くんにとっては、とても魅力的に映るが、結果を出せなければ「落ちこぼれ」とみなされる、その画一性の教育方針には危うさも覚える。そうした風刺性も垣間見せるところは、『オラの引越し物語 サボテン大襲撃』でもサボテンの得体の知れなさを描いてみせた、うえのきみこさんの個性が現れているように思う。

今作は学園ミステリーということになっているが、むしろ描かれているのは、そうした天カス学園の教育方針に反する、多様性のある青春の素晴らしさを謳ったことだろう。エリート校といえども、生徒たちにはそれぞれ個性があり、そして何かを抱えながら、この学園生活を過ごしている。エリートクラスのテン組だろうが、落ちこぼれクラスのカス組だろうが関係なしに、彼らなりの青春を送りたいと思っている。しんのすけが出会う阿月チシオもまた、かつては陸上でトップの戦績を収めながら、あるコンプレックスを抱え、走れなくなってしまい、ついに落ちこぼれのカス組に転落してしまう。

チシオはやがて、学園に居心地の悪さを感じ、自主退学も考えるようになっていたが、個性豊かなしんのすけらとの出会いが彼女を変えていく。人より抜きんでた個性は、周囲から憎まれ妬まれやすく、やがて周囲の目を気にして、その個性を発揮できなくなってしまう。成長するにつれて、人はますますそのように振る舞ってしまうが、無邪気なしんのすけ達にはそれは当てはまらない。周りのことなどお構いなしに、彼らの持ち味を存分に発揮してAIオツムンに立ち向かっていく。そんな彼らに突き動かされる天カス学園の生徒達にはグッと来るものがあった。

ラストについてはここでは多く語らないが、遠くない将来訪れるであろう「別れ」にも踏み込んだ、しんのすけと風間くんの友情を、改めて確かめ合っていて感動を覚えた。2人の別れという点では、すでに一度『オラの引越し物語 サボテン大襲撃』でも描かれているが、その補完も兼ねているように感じた。

 

『サマーフィルムにのって』(2021年・松本壮史監督)

phantom-film.com

『映画大好きポンポさん』『キネマの神様』に続いて、これもまた映画制作がテーマの映画。この短期間で、似たテーマの映画が集中して公開されるのは何の因果だろうか。

主人公のハダシは、現代の女子高生ながら、勝新太郎を敬愛するという時代劇オタク。しかし所属する映画部では、今どきのキラキラ恋愛映画ばかり作っていて、時代劇は撮らせてもらえず、くすぶっている毎日。そんななか、自ら密かに構想していた『武士の青春』の武士にぴったりの青年・凛太郎と出会い、彼を主演にして時代劇映画を作り、文化祭でのゲリラ上映を目指すことに。しかし、この凛太郎、実は未来から来たタイムトラベラーだったのだ。

時代劇・SF・青春・友情・恋愛と、映画にはお馴染みの要素をふんだんに詰め込みながらも、うまくまとまっていて、映画好きにはともかくたまらない。凛太郎が未来から来たタイムトラベラーという設定は、明らかに『時をかける少女』のオマージュだけど、主人公のハダシが、時折原田知世と被って見えてしまったのも、それも意識してのことだろうか。

凛太郎が話した未来の「映画」については、昨今問題になっているファスト映画の成れの果てのように思えて、聞いていて怖くなってしまった。そんな今だからこそ、『ポンポさん』『キネマの神様』のように、改めて映画の楽しさ・面白さを見つめ直していこうという流れが来たのかもしれない。ラストのカタルシスな大立ち回りには、むちゃくちゃシビれた。