ぬるオタな日々 by 少恒星

アラフォー独身のぬるオタの日々戯言。

Netflixアニメ『T・Pぼん(シーズン1)』を観た(※少しネタバレあり)

曲がりなりにも藤子・F・不二雄先生のファンである私だが、その最大のきっかけはテレビアニメに他ならない。自分と同世代、あるいはその上の世代にとって藤子アニメは、幼少期にテレビで当たり前のように放送されていて、『ドラえもん』を中心に『パーマン』や『キテレツ大百科』『エスパー魔美』など多くの藤子F作品がアニメ化され、テレビを賑わせていた。当然アニメが面白いと原作コミックにも興味を示すわけで、そのようにして私も藤子・F・不二雄先生の漫画の魅力にハマっていったのだ。

しかし、その藤子Fアニメも、『ドラえもん』を除けば、テレ東『モジャ公』を最後にテレビアニメシリーズは作られなくなり、映画を含めても2004年公開の『Pa-Pa-Pa ザ★ムービー パーマン タコDEポン!アシHAポン!』以降、藤子Fアニメの新作はなかった。例外として、藤子・F・不二雄ミュージアムで上映される短編アニメで、藤子Fキャラの活躍を観ることはできたが、広く一般に公開されるものとしては『ドラえもん』のみになっていた。10年前の生誕80周年記念作品も結局『STAND BY ME ドラえもん』だったし。

もちろん『ドラえもん』のアニメが長く親しまれているのは嬉しいが、藤子F作品はなにもそれだけじゃなく、F作品の魅力の一端に過ぎない。ゆえに『ドラえもん』以外の作品が長らくメディア化されていないことにもどかしさを感じていたし、『ドラえもん』以外のF作品が忘れ去られてしまうのではという不安もあった。ここ数年ぐらいで『中年スーパーマン左江内氏』やSF短編の実写ドラマ化という新たな動きが出てきたのはそれはそれで嬉しかったが、アニメで育った自分としては、やはりアニメ化を待ち望んでいた。そこへ満を持して現れたのが『T・Pぼん』のシリーズアニメ化だった。

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この発表を知ったときは、飛び上がるほど嬉しかったが、さらに驚いたのは、このアニメを手がけるのが安藤真裕監督
かつてはアクションシーンに強い名アニメーターとして、映画『クレヨンしんちゃん』シリーズなどで大活躍。その後は演出に転向し、2007年に『ストレンヂア 無皇刃譚』という超絶時代劇アクションアニメを発表。さらに『花咲くいろは』といった青春群像劇まで幅広く手がける名手の一人だ。そして、制作スタジオは、その『ストレンヂア』を手がけた気鋭のクリエーター集団・ボンズ
この顔ぶれで期待しないほうがおかしいと言うものだ。というわけで、5月のGWの連休を利用して、シーズン1を一気に視聴した。

注目のキャスト陣は、並平凡役を若手の若山晃久が演じ、リーム・ストリーム役を今や人気・実力ともトップクラスの種崎敦美が演じる。リームはもう少しお姉さんっぽいイメージを浮かべていたが、種崎演じるリームの声は少女っぽさも含ませていて、頼りがいのある先輩であると同時に、少し未熟で幼い性格も表れていて、なかなか良かった。若山演じる凡も「ああ、これぞ藤子作品の主人公だ」と思わせる平凡さと子供っぽさが出ていて感情移入しやすい。

意外だったのは、ブヨヨン役の宮野真守と、白石鉄男役の日笠陽子。藤子キャラの多くは女性声なのだが、まさかブヨヨンを男性声優が演じるとは。でも、この宮野の卓越した演技と個性的な声を聞いちゃうと、不思議と受け入れられる。日笠演じる白石も、前例から外れるキャスティングだけど、ドジっぽさや可愛げのあるキャラクターが強調されていて、これもこれで許せちゃう。王道と意外性がうまく共存し合った絶妙なキャスティングだ。

キャラクターデザインは、この方もアクションには滅法上手いことで知られるアニメーターの佐藤雅弘さん。デザインはもちろん藤子F先生の絵に合わせているんだけど、どちらかといえば、水田わさび版『ドラえもん』の画風に近い印象。ゆえに原作より割とコミカルさが強調されている。一方でアクションシーンの上手さはさすがで、特に第1話で、凡が野武士に襲われるシーンなんか、汁まで溢れる躍動感あるカットになっていて、いかにも安藤監督らしい(笑)

その安藤監督を筆頭に、各話絵コンテで岡村天斎さんや篠原俊哉さんといった監督クラスの面々も参加。この布陣だけを見ても、本気で『T・Pぼん』をアニメ化しようという意気込みを感じる。

さて、その注目の本編。原作発表から時を重ねているため、時代設定や考証において多少の改変はあるものの、概ね原作に沿った展開になっている。どこにでもありそうな日常の世界に、異分子が紛れ込んでくるという藤子F先生のS(少し)・F(不思議)な世界観は大事に守られていて安心感を覚える。と同時に、最近は異世界転生ものの作品が多すぎてしまって、逆に現実と地続きの世界で、異世界の体験をするというのが、一周まわって新鮮味すら感じてしまう。

しかし原作を読んだことのある人なら知っての通り、凄惨かつ残酷な描写も多く、なかなかにショッキング。身近な友人の死から、魔女狩りの拷問にかけられる少女、ピラミッドに閉じ込められてしまう青年、特攻で散ろうとする少年兵などなど…。目を背けたくなるような史実を、容赦なく見せつけてくる。そんな残酷な描写の数々も、今回のシリーズアニメでは、逃げずにしっかり描いてみせている。これこそ『ドラえもん』だけではうかがい知れない藤子F作品の醍醐味であり、F先生がいかに歴史と真正面から向き合ってきたのかを表す冒険譚なのだ。そうした描写も含め、今になってようやく実現できたのは、やはりネット配信の普及も大きいだろう。しかも世界同時配信というからなおさら嬉しい。

(※ここからネタバレあり)
もちろん、ただ原作をなぞればいいと言うものではなく、アニメ化する以上は、やはりアニメならではの面白さも欲しい。それもちゃんと用意されていて、思わず唸ったのは、タイムパトロールの別部署の存在が明らかになったことだ。凡とリームが所属するのは不幸な死に方をした人たちを救う救助課で、この他に、時間犯罪を取り締まる犯罪捜査課と、時空間の歪みを修復する特殊現象処理課が存在する設定が加えられ、3話と9話では犯罪捜査課のウィル捜査官が登場する。そして別部署の人間と関わることはほとんど無いとされている。

この別部署の存在は、実はリームとの別れにも大きく関わっている。シーズン1の最終話では、凡が正隊員になることを機にリームとのコンビを解消することになるが、ここまでは原作通り。そこへもう一つの理由として、リームが処理課に異動になることが明かされる。これもアニメオリジナルの設定だが、リームには見習いの頃から親しかった先輩がおり、その先輩が所属していたのが「特殊現象処理課」だった。だが、処理課の任務中に、先輩は行方不明になってしまい、リームはいつか先輩を見つけるためにタイムパトロールを続けていると凡に明かしている。つまり、処理課に異動になったのは、リームが本格的に先輩を探すために、自ら希望したとも考えられるのだ。となれば、やはりシーズン2以降でリームの再登場もあり得る?
そこまで含めて考えたオリジナル設定なら、これは見事な構成としか言いようがない。

ということで、リームとの別れという寂しい結末を迎えたシーズン1だが、同時にシーズン2への期待も大きく膨らんだ。シーズン2は、十中八九ユミ子との新たなコンビで活躍する展開になると思うが、果たしてどんな仕掛けを用意してくるのか。個人的にはリームよりも、同世代女子のユミ子派なので、彼女が大活躍するシーンを早く見たいですなあ。しかもCVが黒沢ともよで、今期も『ユーフォニアム』の黄前久美子と『ゆるキャン△』の土岐綾乃という、自分の二大お気に入りヒロインだし。良い夏が過ごせそうです。