ぬるオタな日々 by 少恒星

アラフォー独身のぬるオタの日々戯言。

建礼門院(平徳子)ゆかりの地を訪れる(アニメ『平家物語』聖地巡礼)

先日、テレビ放送での最終回を迎えたアニメ『平家物語』。平家の栄華と没落を描いた軍記物語を、山田尚子監督とサイエンスSARUの制作によってアニメ化された本作。避けられぬ運命に翻弄されながらも、懸命に生きた平家の物語が叙情的に描かれ、観ていて涙を堪えずにはいられなかった。中でも、平家の地位安定のために、高倉天皇に嫁ぎ、のちに安徳天皇を産み、やがて壮絶な人生を辿ることとなる平徳子の毅然とした生き様には心を打たれた。

最終話で、徳子は壇ノ浦の戦いで入水するも、びわの手によって救われ、やがて出家し、建礼門院として大原の寂光院で隠棲する姿が描かれる。その建礼門院のゆかりの地を訪れた。

建礼門院が出家した長楽寺

最初に訪れたのは、建礼門院壇ノ浦の戦いのあとに出家したという長楽寺。延暦24年(805年)、勅命により最澄延暦寺の別院として創建したのが始まりとされる。円山公園の東南方に位置し、木々が多く生い茂る閑静な寺院だ。

5月1日限定のアニメ放映記念特別御朱印


訪れたこの日(2022年5月1日)は、当日限定でアニメ『平家物語』放映記念の御朱印が受け取れるということで、迷わず入手。びわ平重盛建礼門院のハンコと、『平家物語』冒頭部が達筆で描かれた特別な御朱印だ。

春期特別展で建礼門院の御遺宝展示

www.chorakuji.or.jpまた、春期特別展の期間中ということもあり、建礼門院が残したお宝も見ることができた。それは安徳天皇が今際の際、つまり壇ノ浦の戦いで入水する直前まで着ていたとされる衣を使って作られた御衣幡だ。形見として持っていた着衣を、建礼門院自らが御衣幡として縫い直し、布施として長楽寺に納めたという。現物を見たら、アニメ最終話の安徳天皇の入水シーンが頭をよぎり、建礼門院安徳天皇に注いでいた愛情の大きさを感じ、すっかり目が潤んでしまった。

庭園で抹茶と干菓子をいただく

この日はあいにくの雨で、寺院内をまわるのはなかなか辛かったが、庭園の茶室で抹茶と干菓子を頂くことができた。庭園に降りしきる雨の音と、絶えず鳴り響くカエルの声を聞きながら頂いた抹茶は格別で、京都の風情を強く感じた。紅葉のシーズンになれば、赤く染まった庭園を拝めるだろう。何時間でも居たいほど、心地よい時間だった。
www.chorakuji.or.jp

建礼門院隠棲の地、寂光院

河原町から満員のバスに乗り、揺られることおよそ40分。大原のバス停に着き、そこから歩くこと15分。寂光院に到着。寂光院天台宗の尼寺で、推古2年(594年)に聖徳太子が父・用明天皇の菩提を弔うために建立されたと伝えられる。入口で受付を済ませ、緑が映えるもみじの木々をくぐり抜けるように石段を登ると、寂光院の門が佇む。

火災消失から蘇った本堂

門をくぐると、境内の中心に本堂がどっしりと構える。本堂は、平家物語当時の建築様式の特色を残していたが、2000年に放火による火災で消失。収蔵されていた木造地蔵菩薩立像も焼損してしまった。像内にあった地蔵菩薩の小像は奇跡的に無事で、残った小像の一部は宝物殿で見ることができる。現在の本堂は、2005年に古式通りに忠実に再建されたもので、地蔵菩薩鎌倉時代当時の姿そのままに復元された。その復元に至るまでの経緯は、宝物殿の展示で解説されており、復元に尽力した人達の強い思いに頭が下がった。(※本堂内は撮影禁止)

境内に残る、時代の痕跡

境内には、『平家物語』の時代を偲ばせるものがいくつか見受けられた。汀の池は、後白河法皇が「大原御幸」の際に詠まれた*1場所であり、そこにあった姫小松は樹齢1000年とも伝えられた。しかし、これも2000年の火災により枯れてしまい伐採。現在はご神木としてお祀りされている。


その汀の池のそばには、「諸行無常の鐘」と称された梵鐘の懸かった鐘楼がある。江戸時代に建立されたもので、当然『平家物語』にちなんで名付けられたものだろう。一度是非その音を聞いてみたい。

建礼門院の眠る大原西陵

寂光院の門前の手前にある、一直線の石畳の道を上がると、建礼門院墓所とされる大原西陵がある。没年には諸説あり、30半ばの若さで亡くなったとも、あるいは60近くまで生きたとも伝えられる。いずれにせよ、この静かな大原の地は、激動の時代を生き抜いた建礼門院の余生を送るにふさわしい場所だっただろう。安らかな眠りにつく建礼門院の墓前に手を合わせ、その余生に思いを馳せた。
www.jakkoin.jp

建礼門院が名付けた「しば漬け」

kyoto-ohara-kankouhosyoukai.netアニメ最終話で、後白河法皇が食した「しば漬け」。大原地区は「赤しそ」の産地として知られており、地元民が赤しそを使った漬物を献上したところ、建礼門院はその味にたいそう喜んだという。その鮮やかな紫色にちなんで「紫葉漬け(むらさきはづけ)」と名付けたことから、転じて「しば漬け」と呼ばれるようになったという。寂光院の門前には、「翠月」という漬物屋があり、しば漬けを始め京漬物や佃煮を製造販売している。赤しその味がしみわたり、なかなかの美味だったので、寂光院を訪れたら、お土産として買うのをオススメしたい。

京都国際マンガミュージアムでキャラ原案展示中(~6/27まで)

ちょうど京都国際マンガミュージアムでは、『平家物語』の高野文子と映画『犬王』の松本大洋のキャラクター原案展示が開催中ということで訪れた。柔らかな線で描かれた高野文子さんの優しいタッチと、それとは対称的な松本大洋さんの荒々しさが際立つタッチには目を見張るものがあった。『犬王』の湯浅政明監督の直筆サインも展示されており、『平家物語』とはひと味もふた味も違うダイナミックな作品になることを予感させた。今週末(5/28)の公開が今から楽しみで仕方がない。

kyotomm.jp

*1:「池水に汀の桜散り敷きて 波の花こそ盛なりけれ」『平家物語』大原御幸