ぬるオタな日々 by 少恒星

アラフォー独身のぬるオタの日々戯言。

もっと児童文学の可能性を信じてほしい

先日の2月15日に「大阪国際児童文学館と府立図書館を考える集い」が行われたそうだ。私自身は参加しなかったのだが、参加された方から数々の情報を得たのでここに記しておく。
まずは、以前行われた寄贈者・関係者と橋下知事との意見交換会について。鳥越信氏によれば、関係者の意見に対し、知事が持論を展開する場となり、実際は十分な意見交換とはならなかったという。その意見交換会からはっきりしたことは、児童文学館の閉鎖・移転は府の財政問題とは関係がなく、また入館者数もさほど関係がないという。結局のところ、大阪センチュリー交響楽団と同様、知事の価値観に沿わないのが最大の理由らしい。(意見交換会の発言要約はこちら→http://www.hico.jp/bungakukan/20090121.htm
そして、移転先となる大阪府立図書館は、管理・運営業務に市場化テストの導入を進めており、知事は「官と民が6対4なら民を採る」と明言して、民営化を進める方針だという。かつて「図書館以外いらない」と語っていた知事であったが、その図書館行政の改革も進めようとしている。その兆しはすでに現れているようで、先日、府の教育委員会から、府立高校の学校図書館の司書教諭の専任を廃止するとの通達が出されたそうだ。
これらの状況を受けて、鳥越氏は「運送トラックの前に身を投げ出しても止める。資料を殺されるくらいなら自分の手で命を終わらせる」とまで言われたそうだ。また、鳥越氏は「寄贈が所蔵資料の7割を占めている以上、今後、返却を要求する寄贈者の声が高まってゆけば、移転の意味もなくなるのではないか」とも語った。(知事自身は、「寄贈者の思いに反するのであれば、本をお返しするなりの対応になると思う」とのことだが。)
参加者の中には府立図書館の司書の人も来られたそうで、「児童文学館は府立図書館とは全く機能が違う」「中央図書館では新刊本は貴重でないが、児童文学館では未来に残すための貴重書。子どもの本はすぐ流通から消えてしまう。統合したら出版社は新刊を無料でくれなくなる」と主張された。


「子どもの本はすぐ流通から消えてしまう」。これはおっしゃるとおりだ。児童文学に限らず、児童向けの漫画本も売れなくなってしまえばすぐに絶版される。それがたとえ一世を風靡した人気作品であっても、どんなに優れた作品であっても。復刊ドットコムには、そうした作品の復刊を望む声が多く寄せられている。売れなくなったからといって、その作品が封殺されるようなことがあっていいのだろうか?
一昨年公開された、私の敬愛する原恵一監督の『河童のクゥと夏休み』。この原作は、日本児童文学者協会の会長も務めた故・木暮正夫氏の児童文学だ。原監督は、20年ほど前に、マンガのアニメ化ばかりになっていたアニメ業界の状況に危機感を覚え、別の可能性を探ろうと古本屋で児童文学を漁り、その中で心を惹かれたのが「かっぱ大さわぎ」だった。この「かっぱ大さわぎ」の原作本の初版は1978年で、原監督が見つけた当時はすでに絶版になっていたものだった。しかし、原監督はこれをアニメ化することを目標にし、ついにこれを叶えた。映画の公開に合わせて、木暮氏の原作本も、映画と同題の単行本として復刊された。『河童のクゥ』はその内容が高く評価され、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞など数々の賞を受賞したことは記憶に新しい。
どんなに忘れ去られた作品であっても、それが時を経て評価され、日の目を見ることだってある。こうして別のかたちで蘇り、新たな感動を我々に与えてくれることだってある。もっと児童文学や児童向け漫画の可能性を信じてもいいのではなかろうか?売れなくなったから、誰も読まなくなったからといってすぐに見捨てないでほしい。児童文学館はそうした可能性を少しでも残せる砦ではないだろうか。
橋下知事は今月の議会にも、国際児童文学館の廃止条例案を提出する意向だ。どうか府議会は何とかこれを阻止していただきたいものだ。


あと、図書館業務の市場化テストについては、私自身、まだ市場化テストのことをよく知らないので、ちょっと調べてから後日機会のあるときに見解を述べたいと思う。

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木暮 正夫

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