ぬるオタな日々 by 少恒星

アラフォー独身のぬるオタの日々戯言。

東京都青少年健全育成条例改正案のねらいと最大の問題点

前回から1ヶ月以上も間が空いてしまった。その間に、東京都の青少年健全育成条例の改正案は継続審議となったものの、まだ予断を許さない状況が続いている。以降、都条例についてはできるかぎり情報を追うようにしているが、いろんな意見を聞いていくうちに、この条例の最大の問題点がわかってきたように思う。もちろん、「非実在青少年」なる定義もそうだが、それを生んだのは、この青少年育成条例に「児童ポルノ禁止」という目的をねじ込んだことに起因していると思う。

現行条例との比較対照表*1を見ればわかると思うが、新たに追加されている条項として、第三章の三に「児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた気運の醸成及び環境の整備」というのが加えられている。児童を性の対象にしてはならないという風潮を根付かせ、都民にそのような図書を蔓延させない責務を負わせるのが、改正条例案の目的の一つだ。だから、「非実在青少年」なる定義も、その流れから来ているものであるから、「新たに規制を加える必要がない」と言っても、都は聞く耳を持たないのだ。だが、国レベルでも、創作物も「児童ポルノ」の対象に加えるかどうか、単純所持も禁止にすべきかどうかははっきりとした結論が出ていない。それに、そもそも国で定められている「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(児童買春・児童ポルノ禁止法)」は、被害にあった(実在の)児童の保護、あるいは被害防止を目的とした法律であって、青少年の健全育成のためではない。目的が違うのに、無理矢理、健全育成条例にねじ込むのは、あまりなじまないのではなかろうか。

私の地元である奈良県は、実は条例で児童ポルノの単純所持が禁じられている。といっても、県条例の児童ポルノは13歳未満を指しており、創作物は含まれていない。そして、それを定めている条例は何かと言うと、青少年健全育成条例ではなく、「子どもを犯罪の被害から守る条例」という別の条例だ。この条例は6年前に県内で起きた女児誘拐殺人事件を契機に定められたもので、ポルノ所持の禁止のほかに、「子どもに不安を与える行為の禁止」「子どもを威迫する行為の禁止」などが盛り込まれている。いずれも犯罪被害の防止という観点から定められたものだ。(ただ、この条例の制定をめぐっては、議論が拙速すぎるとして批判の声があったことも付け加えておく。)

そうした事例を踏まえると、この東京都の改正条例案は、「青少年健全育成条例」と「児童ポルノ禁止条例」という二つの条例を一つにしたようなものという印象を受ける。もし、児童ポルノの根絶をしたいというのであれば、都は青少年条例改正案に盛り込むのではなく、新たに条例を制定すべきだったろう。だが、実際に児童ポルノ禁止条例を定めて、その上、創作物も対象に加えて、単純所持も禁止してしまえば、反発はなお大きかったことだろう。そこで都民の理解を得られやすくするために、青少年条例にそれらの内容を盛り込み、表向きはゾーニングを徹底する内容ということにした。もちろん、これは私の憶測であるが、経緯を踏まえるとそうとられても仕方ないように思う。結局、その目論見は見事に外れ、「しずかちゃんの入浴シーンはOK」などというお粗末な見解を出さざるを得なくなってしまったわけだが。

(実在の)児童ポルノについては、実際の被害児童がいるわけだし、規制については誰も反対しないだろう。しかし、漫画・アニメなどの創作物まで対象を広げるのは、「表現の自由」という人類が長い歴史を経て勝ち取ってきた権利を侵すことになりかねない。だからこそ慎重な議論が必要だが、それをろくにせずに、「青少年の健全育成」という名の下でこっそりと規制をかけていくやり方は姑息以外の何者でもない。次の都議会では、どうか都議の賢明なる判断をお願いしたい。

*1:http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/08_joureikaisei/sinkyuutaisyou.pdf ※pdf注意